原題:Visioni Natalizie, Pastorale
Giuseppe Sirlen Milanesi

邦題:牧歌「降誕祭の幻影」
ジュゼッペ・シㇽレン・ミラネージ

ジュゼッペ・シㇽレン・ミラネージ(1891–1950)もまた、イル・プレットロ誌を通じて斯界に芸術性の高い作品を提供した作曲家の一人である。マンドリン合奏曲としては「主題と変奏」や序曲「愉快な仲間」などの力作があり、プレクトラム四重奏曲やマンドリン独奏曲の分野では他の追随を許さない境地を切り拓いた。作風は、劇的な熱量を放つカッペㇽレッティとは対照的に、端正な洒脱さともいうべき室内楽的な気品に満ちている。

本曲はクリスマスの情景を幻想的に綴った小品で、1934年にイル・プレットロ誌にパート譜が掲載された。元来、パストラーレ(牧歌)とは、イエス降誕を最初に天使から告げられた羊飼いたちを音楽で表したものである。本曲においても、ゆりかごのような6/8拍子のリズム、甘くノスタルジックな旋律、ザンポーニャ(バグパイプ)を模倣する保続音(ドローン)の素朴な響きといったパストラーレの特徴を備えながらも、単一主題から二つの動機を抜き出してソナタ形式のように展開させるなど、近代的な室内楽作品としても聴く者を飽きさせない。本日は中野二郎先生によるマンドリンオーケストラへの整曲版を演奏する。本曲を広くご紹介いただいた中野先生に深い敬意を表しつつ、訳題はオザキ譜庫管理委員会が付した「降誕祭の幻影」を採った。

◼ 楽曲の構成
本曲の構成を以下に示す。( ) は演奏上の小節数を表す。

||: A(16) :|| -B(25)-A(16)-A'(11)-Coda(4)

リピート記号のつき方からは、複合三部形式とみなせるが、全体を通して主題が主部(A)の一つだけである点が特徴的である。単一主題でありながら、それを構成する二つの動機を中間部で自在に展開する様はソナタ形式のようでもある。以下、各部ごとに解説する。

冒頭、8小節(4つの動機a-b-a’-c)から成る本曲唯一の主題が提示される。主題は主調(ト長調)で始まり動機cではダブルドミナント(II→V/II→II→V)により華やかに半終止する。主部後半はそのまま動機cがパートを変えて2回リフレインされ、最後の4小節は次への橋渡しとしてV7omit3の空虚な響きの分散音型が低音部により催眠術のように繰り返される。

このように、主部は、主調による動機a-b-a’に続いて、属調の和声上で動機cが3回繰り返されており、単一主題ながらソナタ形式の提示部のように主調と属調が対比されている。

中間部(B)は、頻繁な転調を伴いながら主部主題の二つの動機(a,c)を交互に登場させてポリフォニックに展開される。終盤はニ短調に到達し、劇的な暗さを持つ♭II/IV(ナポリの六)→V7→I(ピカルディー終止)を二度繰り返し、パストラーレらしさを演出する。

再現部(A-A’)は、単純な繰り返しを避けてA’でリハーモナイズが施され、meno mossoとなって宗教的感動の最高潮を迎える。また、A’部では、提示部のc動機に該当する部分が主調となり、本曲で唯一の主調(ト長調)による完全終止が置かれる。Codaに入り、ギターが教会の鐘の音を模すなかで、微睡むようにクリスマスの幻影が霞んでゆく。

ミラネージといえば、先に述べた『主題と変奏』(変奏曲形式)や『序曲 “ 愉快な仲間 ” 』(ソナタ形式)といった作曲の技巧を前面に押し出した純音楽的な器楽作品の印象が強いが、本曲は、クリスマスの幻想の描写という標題音楽らしい歌心を前面に出しつつも、よく見ると非常に手の込んだ凝った作りとなっており、まさに玄人好みの佳曲といえよう。

(筆者 清末信行)