原題:Quando Parla il Tramonto!…, Preludio per orchestra mandolinistica
Dino Berruti
邦題:マンドリンオーケストラのための前奏曲「黄昏語る時」ディーノ・ベッルーティ
ディーノ・ベッルーティ(1893–1947)は、イタリア・ピエモンテ州の美しい丘陵地帯であり、ワインの名産地としても知られるモンフェッラート地方出身のギタリスト兼作曲家である。正規の音楽教育を受けていないいわゆるアマチュア音楽家であったが、その才能は高く評価され、「イル・プレットロ」誌やOND(ドポラヴォーロ国民協会)のコンクールで度々入賞を果たした。本曲は、彼の “黄昏三部作” の一つに数えられる作品で、1930年の「イル・プレットロ」誌作曲コンクールにて一等賞を獲得している。ベッルーティやプリモ・シルヴェストーリの作品に見られるロマンティシズムとドラマ性への傾倒は、マンドリン音楽が進むべき一つの方向性を指し示したといえる。
原題の「Quando Parla il Tramonto!…」は、「黄昏」を擬人化した極めて詩的な表現(直訳は「黄昏が語るとき!…」)であり、ロマンティシズム溢れる旋律によってドラマティックな場面描写に徹した曲調と見事に調和している。
本作の根底には、古代ローマ以来の「メメント・モリ(死を想え)」の哲学的伝統に基づく、イタリア人特有の両義的な感性が流れていると思われる。彼らにとって黄昏とは、単に去りゆくものへの愛惜に沈む時間ではない。生命の象徴である太陽が沈み、死の象徴である夜を迎えようとする狭間において、死を意識するからこそ、逆説的に今ある生を積極的に肯定しようとする祝祭のひと時なのである。
この精神性を象徴するのが、ベッルーティの生地ピエモンテ州に伝わる「メレンダ・シノイラ(merenda sinoira)」という習慣である。元来は農夫が日没まで働くための軽い腹ごしらえであったが、それは一日の労働を終えて静かにグラスを傾け、自然と対話する厳かな時間でもあった。現在でもこの地方では、黄昏時に家族や友人とワインを楽しみ、暗闇(死)の直前の最も美しい光(生命)を愛でるこの習慣が、人生の豊かさを象徴する時間として大切にされている。
こうした「生と死が交差する瞬間」を愛でるイタリア人特有の感性を念頭に、さまざまに表情を変える本曲のドラマを味わっていただければ幸いである。
◼ 楽曲の構成
【序奏】(17小節)
ニ短調、4/4拍子、andante。
冒頭、Im→♭V(ニ短調の和声的短音階の構成音を一つも含まない、いわば“異界”の和音である。)の不気味な進行が二度繰り返され、生死が交錯する黄昏時の尋常ならざる妖しさを演出する。樹々のざわめきの中で、マンドリンが寂しげに鳥の声をリフレインする。その静寂を破って、マンドラが暗い情熱を秘めたメロディを歌い上げ、オーケストラのV7の強奏でドラマの幕が上がる。
【シーン1】(8 小節)
ニ長調に転じ、3/4拍子となる。マンドリンが本曲のメインテーマとなる、明るく幸福感に満ちた優美なメロディを奏でる。
【シーン2】(8 小節)
イ長調の切ないメロディから嬰ヘ短調で劇的に盛り上がる。冒頭で、作者のもう一つの代表作「前奏曲「黄昏」(Crepuscolo, Preludio)」と共通する動機を提示する。
【シーン3】(8 小節)
IIdim | IVm V | Im V7 | Im の進行をホ短調と嬰ヘ短調で繰り返す。この8小節間のメロディとコード進行は「前奏曲「黄昏」」でもほぼ同じものが使われている。
【シーン4】(13 小節)
一転して明るい光が差し込むようなニ長調のcon animaからダブルドミナントにより華やかさを増したmosso animatoで高揚する。突如、ニ短調による慟哭のような調べが挿入され、急ブレーキをかけながら力強くフィナーレを導く。
【シーン5】(19 小節)
ニ長調。シーン1で提示された本曲のメインテーマがsostenuto moltoで再現され、人生への讃歌が壮大に鳴り響く。日没の瞬間を感じさせるクライマックスを迎えた後、メインテーマの動機が“やまびこ”のように応答されながら、山々は静かに夕闇に沈みゆく。
【後奏】(12 小節)
序奏と同じく、ニ短調、4/4拍子で特徴的なIm→♭Vの進行が繰り返されるが、後奏では高音域で再現され、不気味さよりも神秘性が強められている。再び、遠くに鳥の鳴き声が聴こえ、夜の帳が下りる。
(筆者 清末信行)