原題:Suite Marinaresca,Suite in 4 tempi,op.158
Giulio De Micheli
Trascrizione di Takayuki Ishimura
邦題:海の組曲,4つの楽章からなる組曲,作品158
ジュリオ・デ・ミケーリ
石村隆行 編曲
楽章:
Ⅰ. Poesia del mare(海の詩)
Ⅱ. Vita di bordo(船内の暮らし)
Ⅲ. A sera(夕べに)
Ⅳ. Ritorno della Crocièra(航海からの帰還)
ジュリオ・デ・ミケーリ(Giulio De Micheli, 1899年9月26日 – 1940年9月30日)は、ヴァイオリニスト、指揮者としても活躍したイタリアの作曲家です。イタリア北部のリグーリア州のラ・スぺツィアに生まれ、ロンバルディア州ベルガモのコーヴォで没しています。
5歳で音楽の才能を現し、15歳で学位を得て、エミリア・ロマーナ州パルマのアッリーゴ・ボイト音楽院で学び、ヴァイオリンのヴィルトーゾ(超絶技巧奏者)としてイタリア国内外でコンサートを行っています。
作曲作品にはオペレッタ、ミサ曲、管弦楽曲などがあり、当時、ラジオ放送で彼の曲がよくかけられていたようです。
マンドリンオーケストラでは1976年に組曲「エジプトの幻影」が中野二郎先生によって編曲されて紹介され、第3小組曲、第2小組曲、交響的前奏曲と続き、中野二郎編の黄金時代を担う作品の作曲家の一人となりました。
当時はデ・ミケーリに関する資料が入手されておらず、どのような人物かも判っていませんでしたが、本曲 編曲者の石村氏のイタリア留学によって多くの彼の功績に触れることができるようになりました。第2小組曲、第3小組曲に続く小組曲のシリーズに期待を寄せるところでしたが、このシリーズは15曲(最新の情報では18曲あるかもしれないとのこと)もあり、組曲「エジプトの幻影」も第11小組曲として作曲されたものであることがわかりました。中野二郎先生が不完全なパート譜しか手に入らずに編曲することができなかった組曲「田園にて」(第7小組曲)をはじめとして、多くの小組曲が石村氏によってマンドリンオーケストラに編曲され、新たなレパートリーとなってきています。
以下に編曲されているデ・ミケーリの小組曲を列記しました。
第1小組曲 (op.9) 【石村編】
第2小組曲 (op.18)【中野編】
第3小組曲 (op.39)【中野編】
組曲「追憶」(第6小組曲,op.49)【石村編】
組曲「田園にて」(第7小組曲,op.56)【石村編】
ナポリ風組曲(第10小組曲,op.108)【石村編】(※リンク先は当団所属の奏者で組まれたアンサンブル L’Allegra Brigataによる演奏)
組曲「エジプトの幻影」(第11小組曲,op.122)【中野編】
舞踏組曲(第13小組曲,op.123)【石村編】
小組曲「子ども達の遊び」(第14小曲,op.135)【石村編】
海の組曲(第15小組曲.op.158)【石村編】
今回演奏する「海の組曲」は、現在編曲されている小組曲シリーズの最新の編曲にあたり、最晩年のものになっています。
石村氏によると手写譜のピアノスコアで音量などの指示が全く書かれていないものから編曲したため、かなり創作しているとのことです。
「海の組曲」と言えば、A.アマデイのマンドリンオリジナルの曲が有名ですが、アマデイ作が海に関する神々を題材にしているのに対し、本曲は人々による航海の様子を描いています。
第1楽章:海の詩
マンドラにより弱起するSi-La-Solという音から始まりますが そのモティーフが全体を支配し、海のうねりを感じさせます。パートを加えてうねりは大きくなり、次いで、マンドラソロによる船乗りたちの希望を思わせるメロディが奏でられ、家で待つ妻が寂しさを訴えるようにマンドリンのソロがこれに続きます。そして二人の対話は広がり、雄大に歌い上げられます。
中間部では うねりのモティーフが変化してAllegroの3拍子となり、2拍の波のようなモティーフが繰り返されてゆきます。そして、この2拍のリズムに乗ってギターが踊りのメロディを奏で始めます。4拍子+3拍子の変則的な拍子ですが、低音パートは3拍子を堅持しているため、複雑な印象を与え、大勢が交わっている感覚が生まれます。このメロディはマンドリンやマンドラにも伝播し、まるで船内で出会った人々が挨拶を交わしているようです。
最後には前半の主題が雄大に奏でられ、終楽章を思わせるほどの盛り上がりを見せていよいよ出港です。
第2楽章:船内の暮らし
太陽の光が海面に反射してキラキラ光っているようなオブリガートに乗ってマンドロンチェロが軽快なメロディを奏でます。マンドリンでも、マンドラでも奏でられて様々な人が忙しく働いている様子が伺えます。階段を駆け上がったり、歌を歌ったり…、船内には様々な人たちが居ます。
第3楽章:夕べに
日が暮れて涼しい風に包まれます。絡み合うマンドロンチェロとマンドリンの旋律は、星空のもとでセレナーデを歌う男女のようです。一方で、家を思い出しセンチメンタルな気分になっている者も居ます。そして夜は更け、深い闇に包まれてゆきます。
第4楽章:航海からの帰還
小さな鐘が打ち鳴らされ、華やかな凱旋行進曲が始まります。船内は帰港の準備で忙しくなりますが、港が見えて人々には嬉しさが増して鼻歌混じりになります。さらに気分は盛り上がり、大合唱になります。そして再び華やかな凱旋行進曲とともに港に到着します。
(筆者 田口俊太郎)
ジュリオ・デ・ミケーリ通り
コーヴォには彼を称えたジュリオ・デ・ミケーリ通りがあり、最後に住んでいた家には、「1940年9月30日、この家で、マエストロ ジュリオ・デ・ミケーリが亡くなりました。永遠に新しい響きを尽きることなく創造し、ヴァイオリンの偉業で国内外で名声を博した、生地ラ・スペツィアの誇り、遺骸を守るコモの誇り。」と書かれたプレートが掲げられています。