I.A.フィリオリーニ作曲/石村隆行編曲
シュヴァルツェンベルク侯家はドイツの貴族で膨大な資産を持っていました。ドイツのチェコ国境付近にあるシュヴァルツェンベルク地方を買収したことでシュヴァルツェンベルク家となったとされています。シュヴァルツェンベルクには城も現存しており、この城が物語の舞台となったのかもしれません。
歌劇「シュヴァルツェンベルクの城」は当初、「古城の物語」(La Legenda del Castello)というタイトルで作曲され、後に改作・改題されたもののようです。歌劇「古城の物語」は1920年台から作曲されていましたが、フィリオリーニが反ファシズムの思想を持っていたため、ムッソリーニ政権下にあっては歌劇の上演の機会が得られず、初演されたのは1947年になってしまっています。
マンドリンオリジナル曲としてよく演奏される交響的間奏曲「古城の物語」は、この歌劇の間奏曲として作曲されたものであり、1929年にイル・マンドリーノ誌から出版されています。歌劇自体は前記の理由から未上演でしたので、マンドリン曲として先に紹介されたかたちになってしまっています。改作・改題された歌劇「シュヴァルツェンベルクの城」の間奏曲も同じ主題が使われているとのことです。
この歌劇のストーリーの詳しいことはわかりませんでしたが、編曲者の石村氏によると「古城の物語」のプロットが残っていて、城に纏わる幽霊の物語でワエルデューの歌劇「白衣の婦人」によく似たストーリーだったとのことでした。きっと悲しい過去を持つ女性の幽霊とのラブストーリーだろうと想像が掻き立てられます。
曲は、変ロ長調を主調としてF音から始まる序奏の後、美しいメロディの主題が奏でられ、半音階的な対旋律がまとわりついて彩りを加えます。メロディは終止形をつくらず無限旋律として次へ次へと変化しながらつながって行きます。(調号は変ロ長調のまま臨時記号で変ニ長調に移行するため、♭が多くて奏者はなかなか大変です) 中盤のクライマックスではマンドリンの高音の旋律とチェロ、マンドローネ、コントラバスの低音の旋律がまるで男女一緒に愛を叫ぶかのように奏でられます。その後の主題の旋律を低音楽器と高音楽器で受け渡して形づくる様も愛を語る男女のようです。終盤には序奏の音楽が戻ってきて主題が元のかたちで演奏された後、古城の物語の間奏曲のモチーフがマンドリンのソロで演奏されます。美しいラブストーリーを感じさせる音楽から徐々に怪しさを増し、ハープのグリッサンドを伴って破滅的な激しさを持って一時停止します。そして、これから始まる物語がただのラブストーリーではないことを予感させながら曲を閉じて行きます。無限旋律で終わらなかった音楽は、重厚に終止に向かってゆき、やっと変ロ長調に戻って終わることが出来るのです。
(筆者 田口俊太郎)
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