M.E.ボッシ作曲/石村隆行編曲

本曲は、編曲版には「交響的組曲」(Suite Sinfonico)というタイトルが付けられていますが、原曲にはただ「組曲」(Suite)と書かれています。ドイツ語でfur großes orchesterと附記されており、大編成の管弦楽のためのものであることから、あえて「交響的」を付け加えて曲の規模感を示しているのではないでしょうか。

2006年に同志社大学マンドリンクラブが初演して以来誰も手を出さなかった難曲中の難曲です。編曲者の石村氏によると、当時の大学の指揮者に楽譜を所持しているのを見つけられ、懇願されて編曲したものとのことだそうです。氏いわく「こんなものはマンドリンでは演奏できない」と。そして、今回のビアンカフィオーリのプログラムについて他の曲との構成も含めて「お前らはなんでそんな無謀なことをするのか!」と叱られてしまいました。練習を進める中、お叱りの意味を実感するわけですが、選んでしまった以上やるしかありません。メンバーには苦労をかけてしまって申し訳ないです。とは言え、曲はとても素晴らしく、各楽章が全く異なった面持ちでそれぞれこれまでのマンドリン曲では味わえなかった深さを持っています。

第一楽章:PRAELDIUM(前奏曲)
前奏曲というとゆったりした曲をイメージしてしまいますが、この曲は冒頭からEnergico(力強く)と書かれており、速めのテンポで終始力強い音楽が支配しています。入手できた管弦楽スコアを見ると、この楽章は改作されており、初版ではモチーフが収束してpppで終わる構成になっていましたが、16ページにわたって書き加えられ、fffで更に激しくなって終わります。もちろん今回演奏する編曲は、改作バージョンです。強烈な和音を投げ入れて自在に転調しながらモチーフがたたみかけるように繰り返されます。途中に挿入されるAffettuoso(愛情深く)で音楽は優しさを取り戻しますが、またEnergicoの音楽に戻ります。改作で付け加えられた部分では強奏のなかでAffettuosoのモチーフと交錯し、最後にはEnergicoのモチーフがStrettoとなって速度を上げて激しく終わります。

第二楽章:FATUM(天命)
ラテン語辞書によるとfatumには「神から言われたこと」という意味があり、「天命」または「運命」と訳されます。重い現実を運命として受け入れていく感情を表現しているように思えます。変イ長調で書かれ、冒頭から低音がA♭で鼓動のようにリズムを刻み続けますが、他のパートはA♭を含むセブンスの和音が続き混沌とした音楽で始まります。12小節進んだところでやっと一瞬変イ長調の主和音になりますが、また同じ混沌に戻ります。途中、ロ長調に転調して穏やかな空気に包まれますが、すぐに焦りを感じるようにAnimando、incalzandoと感情が高まり、悲劇的なクライマックスを迎えます。そして上がった息が落ち着くのを待って冒頭の音楽に戻ります。A♭の鼓動にはティンパニも加わってcresc moltoで再び感情が高まりますが、突然pppとなり、緊張感が徐々に和らいで最後は神の許しを得たかのように変イ長調の主和音で穏やかに終わります。

第三楽章:KERMESSE(祭)
一転、祭の情景の音楽になります。この楽章は三つの場面で構成されています。最初は祭のメインテーマのようで華やかで街中が盛り上がっているようです。ティンパニのソロを挟んで踊りの場面となります。チェロのソロで始まったこの踊りは徐々に広がり、大人数の踊りへと拡大します。そしてまたティンパニのソロを挟んで場面転換します。Intermezzo amoroso(愛の間奏曲)とタイトルされたこの音楽は、祭で出会った男女のロマンスを表しているのでしょう。まるで白黒時代の映画のロマンスのシーンのようです。そして最後はまた祭のテーマで華やかな場面に戻ります。踊りのテーマも加えて大盛上がりし、華々しく終わります。

(筆者 田口俊太郎)